「断片的なものの社会学」は、大学で教授と雑談しているような本だった

新年なので、暖かな気持ちになれる本を読了しました。

著者は社会学者の方で、被差別部落の方や貧困世帯の方などと積極的に会って話をし、研究をされている方のようだ。 研究対象上、聞いた話をドラマティックに仕立て上げ、話として面白くすることはいくらでもできるはずである。 しかし、著者はそれを選ばず、徹頭徹尾誰も文章で傷つけないよう最新の注意を払っている。 そして、あくまで研究対象との比較で自分たちを省み、分析し、論評するための素材として取り上げている。

例えば、大阪の貧困地域にゼミの大学生を連れて行く、貧困地域の男性からゼミ生が怒鳴られ、怖さを感じる。 その場面を切り取ってだけみれば、怒鳴る方が悪いようにとれる。しかしそこで、『「見に来られた」おっちゃんの方もつらかっただろうと思う。』と語り、おっちゃんの心境をくみ取る。 そのように、あくまで研究者としての立ち位置を見失わないままに語られる文章からは、様々な気づきをもらえる。

他にも、人と人との関わりの怖さ、コミュニケーションの妙、レッテル貼り、マイノリティとマジョリティなど、難しい題材について、研究者独特の抑制された観察者としての視点と、それでもあふれ出る優しさを感じる美しい文章で書かれた本だった。 まるで、大学の研究室で教授と雑談しているような気分になる本でした。

断片的なものの社会学

断片的なものの社会学

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